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安倍首相憲法改正に突き進むのか?!

 年が改まり、戌(いぬ)年になった。今年も老骨に鞭打ち、気合を入れて取材に精を出したい――。

 年明け、経済は順調のようだが、政治は先行きどんよりして、冴えない。東京株式市場は23日、26年ぶりに一時、2万4000円台をつけた。市場関係者で語られる「戌笑う」の格言通りである。目を転じれば、朝鮮半島情勢は不透明極まりない。国内では安倍晋三首相が憲法改正の国会発議を目指す。政治の荒野には地雷がいっぱい埋まっている。一歩踏み間違えばドカンと行きそうな年になりそうだ。

 旧知の英紙フィナンシャル・タイムズのジリアン・テット米国版編集長が19日付け電子版に「Populist swing alarms financial titans(ポピュリスト躍進に怯える金融界)」と題し、示唆に富む評論記事を載せている。少し長くなるが紹介したい。

 「2018年の最大の危機は、誰かが大量破壊兵器を使う事態だ」と、のっけからぶちかます。世界経済フォーラム(通称ダボス会議)が公表した年次調査によれば、これまで会員が抱く懸念は経済及び金融リスクだった。ところが18年、金融リスクが消え、代わりに登場したのは、経済学者や金融関係者が解決できない、あるいはモデル化できない難問―@危険な社会分断とポピュリズムA異常気象や自然災害問題B軍事紛争など戦争の危険―である。ダボス会議会員の79%が軍事衝突の可能性を予想している。換言すれば、ダボス会議の参加者の3分2以上が、18年は昨年よりも世界が危機と隣り合わせだと悲観的な結論を抱いている。

 軍事衝突の火種は、朝鮮半島をめぐる緊迫した情勢、イランとサウジアラビアの対立を軸とした中東情勢、イスラエルとパレスチナの一触即発状況など世界各地に散見できる。

 想起すべきは、資産運用15兆円の世界最大級ヘッジファンド「ブリッジウォーター・アソシエーツ」の創始者、レイ・ダリオ氏が昨年3月に発表し、大きな話題となった現代政治に関するチャートだ。トランプ米大統領やフランスの極右政党の党首マリーヌ・ルペン氏のようなポピュリストが獲得した票の比率が2010年の7%から17年に35%まで上昇した。記憶する限りポピュリストの得票率がこれほど上昇したのは世界金融危機がポピュリズムにつながった1930年代だけだ。この類似性が金融関係者に不安を呼び覚ました。ポピュリズムの奔流がナショナリズムの台頭を招き、ひいては戦争につながったことは歴史が教えるところである。

 ――とまあ、概略こういう内容で、筆者もほぼ同意する。その兆候は顔を覗かせている。

 筆者のワシントン情報源は興味深い話を伝えてくれた。ホワイトハウスのスタッフの間で「トランプは将来、Your name is Mudと絶対言われたくないので、ほぼ間違いなく対北朝鮮軍事行動に踏み切るだろう」とささやかれているそうだ。mudは泥、「お前は泥まみれ」が転じて「お前は最低なヤツ」という意味になる。ところが、正確なスペリングは、Your name is Muddである。Muddとは何ぞや。米国で尊敬される大統領第1位のエイブラハム・リンカーンを暗殺して護衛に銃撃された犯人を治療した医者の名前が、実はMuddだった。その史実をもじって「お前は史上最低なヤツ」の意味に使われる。

 米国は建国以来、敵から本土を直接攻撃されたことがない。仮に、北朝鮮から飛来する核弾頭搭載ICBMの攻撃を受けるような事態になれば、トランプは米国民から「史上最低の大統領」の烙印を押される。トランプもそれだけは御免こうむりたい。その芽を事前に摘んでおくため、金正恩体制排除のファーストストライク(先制攻撃)を決断する、というわけだ。マティス米国防長官もかの国と外交によるソフトランディングは難しいと判断、軍事オプションのうち「プランA」(具体的内容は不明)の万全準備を指示したと言われている。

 ワシントンからの最新情報によると、武力行使による最悪シナリオは、日米韓で民間人を含めると100万人近い犠牲者が出る。犠牲者を最小限にするための軍事オペレーションを準備するにはもうしばらく時間を要するという。当初「Xデー」は4月ごろだった。今は、この時期が想定より相当ずれ込み、5月の大型連休明けから夏にかけてと見込まれている。

 憲法改正の問題に移りたい。

 今年は明治維新から150年目の節目に当たる。「何がめでたい」と佐藤愛子さんばりのチャチャを入れたいところだが、安倍はその記念すべき年に改憲の国会発議を目論む。「50年、100年先の未来を見据えた国創りを行う。国のかたち、理想の姿を語るのは憲法です。各党が憲法の具体的な案を国会に持ち寄り、議論を深め、前に進めていくことを期待する」。安倍が所信表明演説の締めくくりで述べた決意表明だ。

 とはいえ、改憲への道はさくさく歩けるような平たんなアスファルト道路ではなく、アップダウンが連続する山道である。楽観論者は、与党が国会で3分2を押さえているので改憲は今しかない、と力む。だが、国会の議席占有率と国民の改憲派は正比例の相関関係にあるとは言い難い。平和憲法を世界遺産に、とまで願う護憲派の岩盤はかなり分厚い。共同通信社が1月13〜14日実施した世論調査によると、「安倍首相の下での憲法改正に反対」は前回比6.2ポイント増の54.8%だった。ちなみに「憲法9条改正に反対」は52.7%である。国民レベルでは性急な改憲論議への抵抗感が強いことが、数字からもうかがえる。言うまでもなく、抵抗感の核になっているのは憲法9条改正である。

 行く手を阻む岩盤があるなら巻き道を使おう、と安倍官邸が密かに検討し始めている。こんな情報が筆者の耳元に届いてきた。つまり、9条改正には手をつけず、その以外を改める「からめ手」作戦である。

 引き金となったのは、昨年7月に森英介衆院憲法審査会長(元法相)を団長とする欧州視察団が取りまとめた報告書だとされる。視察団は、英議会関係者から、EU離脱を決めた国民投票の教訓として、日本が憲法改正を国民投票に諮るには少なくとも60%以上の内閣支持率が必要、とアドバイスされたという。英国の為政者に限らず外国人から見ても「Brexit」は驚天動地の投票結果だった。

 直近のマスコミ各社の世論調査で内閣支持率を見ると、時事通信(1月12〜15日実施)支持46.6%(前回より4P増)不支持33.6%(2.5P減)▽読売新聞(12〜14日)支持54%(1P増)不支持35%(1P減)▽共同通信(13〜14日)支持49.7%(2.5P増)不支持36.6%(3.8P減)▽毎日新聞(20〜21日)支持44%(2P減)不支持38%(2P増)――である。

 毎日を除いて、微増傾向にあるものの、50%前後の内閣支持率では心もとない。英国の国民投票の轍に倣うと、仮に衆参両院議員の3分2以上の賛成で国会発議に成功しても、国民投票で過半数に届かない可能性が高くなる。超現実主義者の安倍はそんな危ない橋を渡るわけにいかない、というわけだ。

 リスク回避の懐柔手段として今回は9条改正を先送りする。改憲案として提出するのは、高等教育の無償化、緊急事態条項、参議院の合区解消、の3項目に絞り込む。これなら、国会論議で各党の合意形成は可能かもしれない。通常国会の会期を50〜60日間延長し、終盤に改憲の国会発議を行う。その上で、今年中に国民投票を実施する。安倍官邸はこんなシナリオを想定しているという。

 正面突破でなく、からめ手戦術である。とはいえ、戦後、憲法改正を成し遂げた初の首相という「称号」はつく。安倍はその看板を掲げて9月の自民党総裁選に臨もうというわけだ。

 他方、安倍側近から、9条1項と2項を維持し、3項として自衛隊の存在を明文化するという「首相改憲案」を外すことは絶対にない、との見方も聞こえてくる。正直いって、安倍の真意は測りかねる。

(2018年1月30日)